「おい、剣士」
「何です? 魔術師さん」 「此処は何処だ」 「さぁ、何処でしょうか」 「城の中……じゃないな」 「城の中に森が無い限り有り得ませんね」 「如何してこうなった」 「移転魔術の所為じゃないでしょうか」 「何で唐突に移転魔法をかけられなきゃならんのか説明しろ」 「私に対しての嫌がらせ、ですかね」 「で、何で俺もその嫌がらせにかかってんだ」 「広範囲魔術だったのでしょう」 「それで?」 「偶々進行方向が同じで対して距離をとってなかったので巻き込まれたのですね」 「俺を巻き込まないでくれないか」 「あぁ、ごめんなさい?」 「そんな笑顔で言われても腹立つだけだ」 「でも私の所為ではないですし。文句言うのでしたら仕掛けた人達に言ってくださいな」 「言いたくても言えねぇよ。此処何処だか分からないから帰れないし」 「だからと言って八つ当たりは困りますよ……おや? 今物音しませんでした?」 「あぁ? 音って……確かに何かが移動している音はしているな」 「あぁ、気がなぎ倒される音もしますね」 「近づいてきてないか?」 「来てますね……あ、此れが音の持ち主でしたか」 「デカイな」 「デカイですね。牙向いてますね」 「そうだな。お前を狙い定めてるんじゃないのか」 「あはは、ご冗談を。私のようなやせ細った男子よりも柔らかな肉を持った貴女のような女性を狙うでしょう」 「いやいやいや、お前だろ」 「いえいえいえ、貴女ですよ」 「……言ってる場合じゃないな」 「そうですね、とりあえず逃げましょうか?」 「呑気に聞いてる場合かっ。走るぞ!」 「其の前にお得意の魔術で何とかなりません? というよりも貴女が移転魔法でも使って脱出すればよいのでは?」 「無理、魔術師が全員魔術使えると思うなよ。俺は体力はあるが魔力が皆無だ。寧ろお前のお得意な剣術で足止めと囮を勤めてくれないか?」 「無理ですね、私膨大な魔力を持つ代わりに体力が皆無ですから」 「お前剣士辞めて魔術師に転職しろ」 「じゃあ貴女は魔術師辞めて剣士に転職したら如何です?」 「……とりあえず走るぞ」 「どうぞ逃げてください。私此処に残って食べられますから。多少なりとも囮にはなるでしょう」 「死ぬつもりか?」 「十分も走り続けられない足手まといを連れ歩くよりはマシでしょう? この剣は差し上げましょう、特注品ですので金にもなりますよ」 「ブルジョワめ。貰おう。変わりに杖をやる。魔術の理論は分かるな」 「とりあえず想像して魔力を込めるでしたっけ。使うのには無茶がありますよ」 「簡単に纏めすぎだ。良いから使え、代わりにお前を担いで逃げるから」 「力持ちですねぇ。後悔しませんか?」 「生き残るためだったら後悔はしない、多分」 「では使いますよ」 「いいから使え。俺だってずっと走っていられるわけじゃない」 「では逝きます。えい、やぁ」 「間抜けな掛け声だな」 「仕方が無いですよ、呪文なんて唱えてたら失敗しますから」 「何でだよ。つかすっごいツッコミ入れたいことがあるんだが」 「何でしょうか」 「あの空から落ちてくる火の塊は何だ」 「魔術ですが」 「誰が何時そんな大掛かりな魔術を求めた!?」 「何を使おうとしてもアレになるんですよねぇ……」 「俺達には影響は無いんだろうな!?」 「ばっちり影響あるので早く走ってくださいね」 「お前捨て置こうか」 「ご自由に」 「……くそっ」 「お人よしですね」 「五月蝿い、黙ってろよ!」 「あそこに崖がありますね……」 「それが如何した」 「下が海だったら生き残れます」 「其の前に衝撃で死ぬと思うぞ」 「まぁ、何とかなるんじゃないんです? どちらにせよ死ぬかもしれませんですし」 「しかたがねぇ……死ぬなよ」 「其方こそ、あっさりと死なないようにお願いしますよ」 |