昔昔、遠くて近い過去の時代に人々を幸せにする白い粉が存在していました。 それは甘くとろける幸せを運ぶ白い粉でした。 雪のように冷たく鋭い物ではなく、 星のように遠く触れられない物ではなく、 綿のように柔らかく無機物ではありませんでした。 世界にその幸せの白い粉が広がりました。 人々は幸せの白い粉を舐めたり飲んだり混ぜたり色々と使用方法を編み出しました。 それは幾年も幸せを運び続けました。 けれどもその幸せは長く持ちませんでした。 幸せの白い粉の数量が足りなくなったのです。 世界は幸せの白い粉を求めて戦に明け暮れました。 民主は農業を捨て戦いました。 王は幸せの白い粉を独占しました。 大地が焼かれ文明は崩れ落ちます。 やがて、全てを打ち消すかのように白い雪が世界を覆い始めました。 寒さをしのぐ方法をなくした人達は漸く争いを止めます。 けれども解決方法には到りませんでした。 残された人達は一つの場所に身を寄せ合いました。 日々人が死に到りました。 日々人が狂いだしました。 一年が経った頃、緑が芽生えました。 人々はそれを見て喜びました。 そうして人々は文明を少しずつ立て直します。 そうして人々は伝説を残します。 世界の何処かには、幸せの白い粉が存在するのだと。 眩しい光を感じて眼を覚ます。 ひどく可笑しな夢を見た気がする。 起き上がり大きく背伸びをして作業着に着替える。 「おはよう」 小さな可愛い小鳥に挨拶、日課だ。 「てやんでぃべらんぼうめい」 小さな可愛い小鳥が挨拶、日課だ。 白衣を羽織扉を開く。 今日も作業開始しなくてはならない、今日こそ創り上げられるのだろうか。 甘いという味を持つお菓子を。 扉を出て廊下を突き進む。 廊下の突き当たりにある壁を二度叩き、もと来た道を戻る。 反対側の突き当たりにある古い時計の秒針を逆回し。 今度は階段をくだり書庫に入る。 本棚をずらして壁を叩く。 二階に戻り書斎に入る。 ドアを閉め壁にかかっているランタンに火をつける。 ゆっくりと動き始めた。 ガコン、衝撃とともに止まる。 外に出る、其処は薄暗い廊下になっていた。 慣れた道を突き進み、ビーカーや様々な色の液体、バーナーなどが置かれている部屋にたどりついた。 昨日のうちに考えた材料を並べる。 灰を20グラム、小麦粉を一袋、味付けの為の電卓、牛乳を一リットル、謎の液体を二十リットル。 完璧だ。 灰は前回の失敗作を活用すれば良いだろう。 白いとは言いがたいけれども粉という所は共通点だ、きっと成功する。 ゆっくりと特大ビーカーの中にそれぞれの材料を流し込む。 熱しながら解けるように鉄の棒でかき混ぜる。 鉄が解けたけど些細な問題だろう。 混ぜ終わった後中に入れるものを作ろうとおもう。 緑とピンクの液体、はっぽうすちーる、紙、豚の血二リットル。 別のビーカーの中でピンク色の物体になるまで混ぜる。 最初に作ったものを覚ましながら鉄板に乗せる。 小さく切り分け、それぞれの真ん中にピンク色の物体を乗せ、包む。 形を整えて急激に覚ます。 もちもちと弾力を持つ外側もふっくらとした真ん中部分。 失敗する要素など見当たらない。 完璧だ。 これが古代文明にあったという八橋なのだろう。ピンク色を入れたのだからきっとみるくいちご味というやつだ。 さて、あとは試食だけ。 「お、じゃましてるぜー」 隠し部屋からでて居間に向ったら不法侵入者がいた。 「うざい消えろ」 「ひどっ。おっ、お前何持ってるんだ?」 ショックを受けた振りすること一秒、彼は目ざとく私がてにもつ最高傑作に眼をつけた。 「上げないぞ」 「何だよ、何時も何時も渡さないとか言ってさ。ずりぃぞ」 「私が作ったんだ。誰が食べるのかは私が決める」 「ちぇ、お、アレは何だ?」 唐突に遥か彼方を指差す。 つられて視線を動かした。 「何も無いぞ」 言いながら視線を戻す。 最高傑作を口に含もうとしていた。 「貴様っ!」 「お、もちもちとした食感……味は水?」 微妙な顔をしたまま奴はそうのたまった。 味が水とは……失敗、か。 今度こそは成功すると思ったのだが…… 「全部やるよ」 「え、別にげふぅっ」 奴が全部言い切る前に顔面に叩き込んだ。 また作り直さなくては駄目だな…… 落胆を抱えながら思考を回らせる。 次はどんな材料で作るべきなのだろうか、 伝説の甘い食べ物を、 何時になったら私は作れるのだろうか。 悩むのは時間の無駄、直に思考を切り替え私は考え始める。 もっと効率の良い作り方を。 その一年後 彼は作り出す 甘くヒトをとろけさせる、脅威の一品を。 |