黒に堕ちる恋 上

『大丈夫?』
 あの日、私は恋に堕ちました。
 見知らぬ場所で迷っていた私は泣いていました。
 夕暮れの光を背に背負い、彼女はそんな私に手を差し伸べてくれました。
 純粋な光を湛えた緑玉瞳。
 差し伸べられた手に、美しいそれに、私は一瞬で恋に堕ちました。
 彼女と一緒に居られるのだったら、私は要らない。過去何て……必要ない。

 私達は直ぐに仲良くなれました。
 けど、彼女の好意と私の好意は違ったんです。
 黒のドレスを着て、見知らぬ男性の隣に立つ彼女。
 肩を抱かれて嬉しそうに話す二人。
 聖なる誓いの為にドレスを選ぶ二人を、
 私は背後から見守りました。
 其れを見つめるのが辛くて、悲しくて、私は其の場から立ち去りました。

 今、彼女は私の前に立っています。
 嬉しそうに、楽しそうに笑って、見知らぬ人の話をするのです。
 私は、耐えられませんでした。
 だから、彼女の腕を引きました。
 肩から腕をまわして、顔を近づけ……
 ――口付けを交わしたのです。
 どん、という衝撃。
 よろけて私が見たのは、口を両手で隠し、俯いた彼女の姿。
 あぁ、拒絶されたんですね。
 其れを悟った私は、唇を噛んで俯きました。
 悲しいのです、私は、彼女には愛されませんでした。
 私は、彼女と一緒に居られません。
 悲しくて、辛いのです。
 この気持ちは、この想いは禁忌なのだと分かっています。
 けれど、それでも……
 君を愛して生きられるなら……

 想いを募らせ、私は禁忌の箱を開けました。
 そしてそのまま過去を撃ち捨て、
 私は羽をでさえも切り捨てて、
 欲望のまま動く悪魔となりましょう。



top  next

back ground by:幻想素材館Dream Fantasy