『大丈夫?』
あの日、私は恋に堕ちました。 見知らぬ場所で迷っていた私は泣いていました。 夕暮れの光を背に背負い、彼女はそんな私に手を差し伸べてくれました。 純粋な光を湛えた緑玉瞳。 差し伸べられた手に、美しいそれに、私は一瞬で恋に堕ちました。 彼女と一緒に居られるのだったら、私は要らない。過去何て……必要ない。 私達は直ぐに仲良くなれました。 けど、彼女の好意と私の好意は違ったんです。 黒のドレスを着て、見知らぬ男性の隣に立つ彼女。 肩を抱かれて嬉しそうに話す二人。 聖なる誓いの為にドレスを選ぶ二人を、 私は背後から見守りました。 其れを見つめるのが辛くて、悲しくて、私は其の場から立ち去りました。 今、彼女は私の前に立っています。 嬉しそうに、楽しそうに笑って、見知らぬ人の話をするのです。 私は、耐えられませんでした。 だから、彼女の腕を引きました。 肩から腕をまわして、顔を近づけ…… ――口付けを交わしたのです。 どん、という衝撃。 よろけて私が見たのは、口を両手で隠し、俯いた彼女の姿。 あぁ、拒絶されたんですね。 其れを悟った私は、唇を噛んで俯きました。 悲しいのです、私は、彼女には愛されませんでした。 私は、彼女と一緒に居られません。 悲しくて、辛いのです。 この気持ちは、この想いは禁忌なのだと分かっています。 けれど、それでも…… 君を愛して生きられるなら…… 想いを募らせ、私は禁忌の箱を開けました。 そしてそのまま過去を撃ち捨て、 私は羽をでさえも切り捨てて、 欲望のまま動く悪魔となりましょう。 |