黒に堕ちる恋 中

 聖なる誓いの場所に、私は将来を誓った方と共に訪れました。
 神様、御免なさい。私はあの日から忘れられないのです。
 俯いたまま、手を組んだまま、私は懺悔します。
 隣に彼が居るのに、目の前で神父様が話しをしてくださるのに。
 御免なさい、神様。私はもう分からないのです。
 本当に愛しているのかどうか、分からないのです。

『……御免なさい』
 悲しい声と共に彼女は消え去りました。
 残ったのは一枚の真っ白な、穢れの無い羽根。
 その瞬間、彼女を失いました。
 其の時、私は自分の心を見失いました。
 彼女に口付けされたのです。
 私は同性である彼女に口付けされたのが恥ずかしくて、彼女を拒絶してしまいました。
 そして、彼女は居なくなってしまいました。
 私の目の前から。
 私はアレから彼女に会えません。
 それが悲しくてならないのです。
 神様御免なさい、私は、私の本当の気持ちが分からないのです。
 どうして今こうして悲しいと感じるのかすら分かりません。
 友達をあんまりにもあっけなく無くしてしまったのが悲しいのか、
 それとも……
 ふと、一陣の風を感じて、私は顔を上げました。
 吹き抜けてきた先が気になって私は其処を見つめました。
 それに気がついた彼が外を見たいと勘違いしたのか、見ておいでと優しい声と眼差しで言ってくれました。
 私はそれに甘えて外へと通じる道を通って……
 ――其処で儚い瞳で笑う不思議な少年と出会いました。
 あぁ、御免なさい、神様。
 私は、一目で彼を愛してしまいました。

 そのまま私達は手に手を取り合い、逃げ出してしまいました。
 焦がれたようにお互いを求め合いました。
 過去の誓いすらも侵していくように愛し合いました。
 幸せを二人で分かち合いながら、私達は花畑で将来を誓い合いました。
 愛らしい花で出来た婚約指輪を左手につけて、
 手を絡めあって、
 二人で笑いあいました。


†  †  †



『大好きです、トラップさん』
 脳内に蘇るのは綺麗な微笑みを浮かべる彼女だ。
 愛しい彼女、愛らしい彼女。
 全てを賭けてでも守りたいと想った。
 ずっと、何時までも一緒に居ようと俺達は笑いあった。
 微笑む彼女を俺は守っていくんだと、誓った。
 その夢は、誓いは、あっさりと、あっけなく壊れてしまった。
 最後に見たのは涙を零した彼女。
 銃を手に、欲望のまま堕ちて行った彼女だ。
 壊れた、失われた。
 ――奪われてしまった。

 地上に降り立つ。
 白の礼服を身に纏ったまま、俺は禁忌の箱を開けた。
 目の前には黒に染まった花嫁。
 幸せそうに微笑んでいる女。
 それを見るだけで憎悪が湧き上がる。
 彼女は失われてしまったのに、如何して奪った彼女が幸せそうにしているのか!
 許さない、許せない、赦してたまるか!
 ゆっくりと振り向く彼女に俺は手に取った其れを突きつけ、引き金を引いた……


†  †  †



 コツ……
 音が聞こえました。
 私は振り向き、見えたのは……
 青色の髪に白い十字のついた服を着た青年。
 そして、憎悪に満ちた瞳と、鈍色の……

 ――ドォン!

 瞬間身を貫いたのは痛みです。
 胸を突きぬけていった痛み。
 瞬間理解しました。
 あぁ、此れは――裁きの矢なのですね。


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