黒に堕ちる恋 下

 手から力が抜け落ちる。
 持っていた白い花が大地に散っていく。
 僕は動けない。
 目を見開いて唯見つめた。
「しん……きゅー?」
 彼女は横たわっていた。
 動かない。
 黒のドレスを身に纏った彼女は、赤い血を流して倒れていた。
 ふらりと体がよろめく。
 僕は地に膝を着く。
 恐る恐る手を伸ばす。
 冷たい、温もりの無い、骸。
 彼女は、死んでいた.……
「う、うあああぁぁぁぁぁぁああああああ!」
 あぁ、神様! 此れが裁きなのだろうか!
 彼女を愛してしまったのは罪なのですか!
 愛し合ったのは罪なのですか!
 此れは、人を愛し堕ちた僕の、私の罰なのですか!
 冷たい、愛しい人の亡骸を抱きかかえたまま私は叫ぶ。
 失った、失ってしまった。彼女は失われた。
 あぁ、だったら、僕は私はっ……!

 My dear, lying cold.
 I will spend all my life for you as I swore on that day.
 My sin against God...
 All my acts of treachery should be paid by my death,
 so I will die for you...
 I believe, that's my fate.

 詠う、震える声で。
 私は彼女に、口付けを与えた。


†  †  †



 とくん。心臓の鼓動が聞こえる。
 痛みが感じない。
 四肢の感触がある。
 如何して私は生きているのでしょうか。
 私は、裁きの矢を受けて……死んだはずです。
 暖かい腕で抱かれてる感触がする。
 ゆっくりと目を開く。
 其処に……彼女が居た。
 遠い日に私が拒絶してしまった、居なくなった彼女が。
 彼が着ていたはずの服を纏って。
 安堵のような色を湛えた瞳が私を見つめて……
 微笑みました。
 そして……硝子の割れる音と共に、消えてしまったのです。
「え、し……き?」
 目を見開いて私が見つめる先に、彼女は、彼は居ませんでした。
 ただ、一枚の、漆黒に染まった羽根が舞い落ちます。
 あぁ、理解しました。分かってしまいました。
 彼は、彼女は、私を救うために消えてしまったのです!
「あ、あぁ、いやあああああああああぁぁぁああああ!」
 唯一残った、彼の彼女の存在の証である黒の羽根を両手で包み込み、私は、泣き崩れました。

 神様、私は赦されない罪を犯してしまいました。
 私は、彼女を、シキを確かに愛していたのです。
 けれど私は天使であるシキを堕天させてしまったのです!
 それを、最後の瞬間まで気付けませんでした。
 あぁ、神様。私は酷い女なのです。
 彼女を好いていた私は拒絶を示してしまい、彼女を堕天させてしまったのです!
 挙句の果てに命まで奪ってしまいました。
 あぁ、神様、どうか、お願いです。
 裁きなら私が甘じんて受けます。
 だから、だからどうか、彼の方を帰してください!
 どうか、どうか、もう一度めぐり合わせてください、
 お願いですっ……!
 ――神様っ!


back  top

back ground by:幻想素材館Dream Fantasy