ぽつりぽつりと水滴が落ちる。
小さなそれが、強く、風と共に降る。 空を見上げれば分厚く覆う雲。 鈍色の空。 雨が私を濡らす。 だから、俯いた私の頬を伝う滴は涙なんかじゃない。 あぁ、そうだ。泣いてなんて居ない、居られない。 俯いた視線の先は倒れ伏した男の姿。 白銀の髪に隠された表情は見えない。 ただわかるのは、彼は意識を失っている事と、 右手を前へ、此方へと伸ばしている事と、 衣服を貫く穴が、ゆっくりと流れ出る命の水が彼の意識を奪っている事だけだ。 からん、何かが落ちた音がした。 違う、落としたんだ。 右手に握っていた、剣を落としたんだ。 けれど…… 「重いね……」 重さが変わらない。 赤い液体が付着している手を眺める。 「重いよ……」 剣は既に手放した。 それでも感じる。 肉を貫いた感触も、 其れ尚手を伸ばしてくる彼の重みも。 けれどこれらは全部私の選択の結果だった。 だから泣く権利なんて無い。 私は私からしてみれば最善の事を選んだ。 私は、自ら彼の隣に居る権利を捨てたんだ。 最悪の形で、断ち切った。 それでも、 「辛いよ……」 弱音がこぼれる。 最善だって分かっている。 此れが私の選択しだって、泣いちゃ駄目だって分かってる。 それでも、止まらない。 頬を伝う滴も、 喉奥からこぼれる嗚咽も。 止められない。 濡れた地面に膝を落とす。 震える手を伸ばして私は彼の髪に触れた。 雨と、血に濡れ重みを持った髪を軽くすく。 「これで、最後にするから……」 頭を抱え、膝上に乗せる。 そして、私は泣いた。 みっともなく、泣いて泣いて泣いた。 今までの分も此れからの分も。 一生分泣いてしまえと、 そうして心からの涙を流す。 泣き止むまで。 そして私は立ち上がる。 思考を切り替えて此れからの事を考える。 必要な事はした。 必要な物も盗った。 後は、行くだけだ。 最後に私は彼を見てから私は彼に背中を向けた。 「さようなら……」 私の最愛の人。 後ろ髪引かれつつも、私は進んだ。 私はきっと何度でも悩む事となる。 他の道は無かったのかと何度も考えるだろう。 諦めた物は諦めなくても良かったのではないのかと。 でもきっと私は後悔も懺悔もしない。 此れが今の私にとっての最善の選択だから。 だから、シキ。 ゆるして、なんて言わないから。 これでお別れだね。 あぁ、でも。 出来る事ならば、ずっと一緒に過ごしたかったよ…… |