ながい旅路へ、10の御題

10.ながいながい旅路へ

 分かり合えたのは嬉しい。
 素直にそう思う。
 でも、どうやって逃げようか?
 私は大丈夫でも、
 彼は私のせいで結構な重症中だ。
 彼と一緒だったら何処までも逃避行は出来ると思うけれども。
 目先までやってきた追っ手から逃げるのは、難しいと思う。
「如何しよう?」
「大丈夫だとおもうぞ」
 不安そうな私の問いに、
 彼は笑いながら言った。
 視線は上空へ。
 其れにつられ私も視線を上げる。
 漆黒の影が居た。
 翼を羽ばたかせながら、服と髪を風に躍らせながら、彼はいた。
「紫苑?」
「アイツ紫苑って言うのか……」
「知ってるの?」
「俺が聞きたいな、其れ」
「一応知り合い」
「そっか。俺からしてみると、恩人だな」
「どういう意味?」
「アイツが俺を此処に連れてきてくれたんだ」
「え?」
 轟音が響いた。
 地響き。
 視線を彼から空へ、そして前方へ。
 追っ手が吹き飛ばされる。
 いや、押しのけられている?
 何かよく分からない力が作用しているのか、追っ手達は地に膝をつき、
 持っている物を地面に立て、飛ばされないようにしている。
 それでも吹き飛ばされる人が出る。
 もしかして、紫苑?
「行くぞ」
「え、でも」
「アイツが其処であぁしてるって事は、俺達に逃げろって事だろう。だったら逃げようぜ!」
「何処に向うの?」
「何処でも良い! シンキューと一緒だったら、俺は何処でも生きれる!」
 私の手を掴み、彼は走り出す。
 とても怪我人だとは思えない行動だ。
 というか、怪我を負っている人の行動だとは思えない。
 でも、いいや。
 気になる事は後から聞くとしよう。
 時間は一杯あるみたいだし。
 これからはずっと一緒なんだから。
 知りたい事も聞けば良いし。
 悩みがあったら一緒に悩めば良いよね!
 足を速め、後ろではなく隣に並ぶ。
 手を繋ぎながら、私は彼と並んで駆ける。
 右に視線を動かす。
 眼が合った。
 自然と微笑みあう。
 そして、眼前を見据え、
 逃避行へ。
 さぁ、ながいながい旅路の始まりだ。
 今度はきっと……幸せな旅になれる。


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