冷たい風が吹き抜けてゆく。
朱色の髪と白銀の髪が舞うのが見えた。 力強い抱擁を受けたまま、私は他人事のようにそれを見ていた。 懐かしい温もりと懐かしい声。 泣きたくなる。 もう、泣かないって決めていたのに。 変わらない温もりに私は泣きたくなった。 あぁ、捕まったんだ。 頭の片隅でそう思った。 そのまま立ち尽くす。 私は何も言わないし、 彼も何も言わなかった。 二人で聖域の一歩手前で立ち止まり。 奇跡めいた景色を見る。 お互いの体重を預けあい、 お互いの体温を感じる。 嫌われていないのだと恨まれたいないのだと分かった。 安心した。 気が抜けた。 幸せだと、思う。 彼は、私を探しに着てくれた。 とても、嬉しい。 でも、駄目なんだ。 私は世界を敵にまわすから。 私は彼と一緒にいちゃいけないんだ。 あぁ、でも…… もうすこし、ここで…… 「いたぞー!」 「神子様も居るぞっ!」 静寂が打ち破られる。 遥か後方からだけれども、 聞こえてきたのは追っ手の声だ。 このままでは私は捕まる。 このままじゃ彼は殺される。 ぎゅっと手を握る。 覚悟を決めなくちゃならない。 離れる覚悟をだ。 息を吸う。 そして吐く。 落ち着いて、声を震わせないように、私は彼の名を呼んだ。 「シキ」 「何だ、シンキュー」 「放して、私行かなくちゃ」 「……嫌だ」 「シキっ」 「俺は、お前と一緒が良い。たとえ何があったとしても、一緒が良いんだ」 「私は、世界の敵になるから、巻き込みたくないっ」 「世界からの逃避行も悪くない」 「何を……」 「シンキュー!」 肩をつかまれ、振り向かされる。 必死な表情、決意の眼差し。 彼はもう決めているのだというのが分かった。 嬉しいと、思った。 きっと、私は今泣きそうな表情を浮かんでいるのだろう。 「俺は、何があろうともお前と一緒が良い。世界が敵でも構わない。お前がいなければ、俺は死んでしまう。俺の世界が死んでしまう。だから、頼むから離れると分かれるとは言わないでくれ。ずっと俺のそばに居てくれ。お前の隣が俺の居場所なんだ。だから……」 心があったかくなった。 あれ程まで私は脅えていたのに。 彼の言葉で奮い立つ。 あぁ、一緒に居ても良いんだって。 一緒に居てくれるんだって。 隣に立っても良いんだって。 資格はもうないって思っていたのに。 彼はこうまで求めてくれるって。 嬉しくて、私は泣いた。 「それに、俺は本当は知っていた。命を捨てるって事が。だから、ごめん。俺が悪かった。もっと早く教えていればよかったんだって、後悔してる。後で叱っても良い、怒っても良い。俺と、一緒に居てくれないか?」 「……それについては後できちんと問いただす」 「悪かった……でもお前も俺に相談せずに色々と決めただろう」 「うっ、それは……」 「と、後ろが五月蝿くなってきたな。これらの事は後になって話そう。シンキュー一緒に居てくれるか?」 「うんっ!」 心からの答えを、私は言った。 |