今でも覚えている事がある。
ずっと昔。 明るい馬鹿に会った。 新月の日。 傷ついた俺を、雨に濡れた俺を拾った人が居た。 見てくれからも、悪魔だって分かるのに。 君は拾った。 馬鹿な人だった。 明るい人だった。 太陽みたいだと思った。 凄く、良い匂いしている。 凄く、美味しそうな魂を持った人間。 自分を襲うかもしれないと、知っていたのに。 俺を拾った。 今でも覚えている。 楽しかった。 不思議と安らげた。 ずっと、少なくとも奴が死ぬまで一緒に居られると思った。 青天の日だ。 奴は唐突に旅に出るといわれた。 始めてみる人間と一緒に出ると言った。 そして俺は置いていかれた。 悲しいと思った。 少し恨んだ。 だからこっそりと着いて行った。 そして知った。 奴は神子なんだって。 だから旅に出たんだって。 他の悪魔に狙われてるのに気がついた。 殺すんだったら俺が殺す。 思って他の悪魔を撃退してたらばれた。 そしたら普通に仲間に入れられた。 しかも人間の振りしろと無茶言われた。 罵ったり殴ったり。 馬鹿にしたり。 色々あった。 結局俺はついていった。 楽しいと思った。 旅が楽しいと。 人間は変だけど。 とても面白いと思った。 ずっと続くと思った。 でも違った。 始まりがあれば、 終わりがある。 旅の終点へとたどり着いた俺達は。 最寄の町で宿泊し。 その夜、奴がやってきた。 唐突に約束を言い出した。 気まぐれに受けた。 そしたらほっとしたように笑って…… 俺は奴の手によって意識を失った。 次に眼が覚めたときにはもう遅くて。 急いで焦って私は周囲を気にせずに翼を出した。 飛んで結界を越えた先に見たのは、 血に塗れて息を引き取る手前の姿。 気がついてしまった。 死ぬんだと。 理解してしまった。 神子とは生贄なんだと。 最後の最期だって。 もう、一緒ではいられないんだって。 殺すのは、俺のはずだったのに。 奴は一人死んでいく。 馬鹿だと。 泣きたくなった。 近づくと奴は驚いたように俺を見上げた。 そして、何時ものように笑った。 最後の最期に、アイシテルと言い残して。 息を引き取った。 光の柱が上がり。 世界は豊かになった。 けれど、居ない。 心に穴が開いたような空虚感。 俺は、アイツの事を存外気に入っていた事に気がついた。 もう、アイツは居ないから。 交わした約束をアイツが居た証として大事に抱え。 その約束を守る事を生きる理由にした。 そして今に到る。 奴の意思が宿った石に導かれた朱色と白銀。 奴により神子の役わりを知った白銀は神子の役わりを奪い。 白銀を失いたくない朱色は俺に縋った。 このままだったら、朱色は白銀と分かれるのだろうかと。 このままだったら、どっちかが死ぬのだと理解した。 けど、白銀は諦めていなかった。 追いかける為に逃げ出した、でも捕まった。 朱色を諦めていなかった。 頑張ってる。今でも。 だから、俺は白銀の前に出た。 手伝うために。 もしかしたら、この二人だったらやってくれるんじゃないかなと。 少しの期待。 俺は無理だったけど。 色々と知ったこの二人だったら可能じゃないのかと。 思う。 奴は、俺に記憶だけど色濃く残していったけど。 この二人だったら一緒にはいられるんじゃないかなと。 悪魔だけど。 二人が俺達と違って、幸せになれば良いなと。 願ったんだ。 |