ながい旅路へ、10の御題

08.色濃く残して

 今でも覚えている事がある。
 ずっと昔。
 明るい馬鹿に会った。
 新月の日。
 傷ついた俺を、雨に濡れた俺を拾った人が居た。
 見てくれからも、悪魔だって分かるのに。
 君は拾った。
 馬鹿な人だった。
 明るい人だった。
 太陽みたいだと思った。
 凄く、良い匂いしている。
 凄く、美味しそうな魂を持った人間。
 自分を襲うかもしれないと、知っていたのに。
 俺を拾った。
 今でも覚えている。
 楽しかった。
 不思議と安らげた。
 ずっと、少なくとも奴が死ぬまで一緒に居られると思った。
 青天の日だ。
 奴は唐突に旅に出るといわれた。
 始めてみる人間と一緒に出ると言った。
 そして俺は置いていかれた。
 悲しいと思った。
 少し恨んだ。
 だからこっそりと着いて行った。
 そして知った。
 奴は神子なんだって。
 だから旅に出たんだって。
 他の悪魔に狙われてるのに気がついた。
 殺すんだったら俺が殺す。
 思って他の悪魔を撃退してたらばれた。
 そしたら普通に仲間に入れられた。
 しかも人間の振りしろと無茶言われた。
 罵ったり殴ったり。
 馬鹿にしたり。
 色々あった。
 結局俺はついていった。
 楽しいと思った。
 旅が楽しいと。
 人間は変だけど。
 とても面白いと思った。
 ずっと続くと思った。
 でも違った。
 始まりがあれば、
 終わりがある。
 旅の終点へとたどり着いた俺達は。
 最寄の町で宿泊し。
 その夜、奴がやってきた。
 唐突に約束を言い出した。
 気まぐれに受けた。
 そしたらほっとしたように笑って……
 俺は奴の手によって意識を失った。
 次に眼が覚めたときにはもう遅くて。
 急いで焦って私は周囲を気にせずに翼を出した。
 飛んで結界を越えた先に見たのは、
 血に塗れて息を引き取る手前の姿。
 気がついてしまった。
 死ぬんだと。
 理解してしまった。
 神子とは生贄なんだと。
 最後の最期だって。
 もう、一緒ではいられないんだって。
 殺すのは、俺のはずだったのに。
 奴は一人死んでいく。
 馬鹿だと。
 泣きたくなった。
 近づくと奴は驚いたように俺を見上げた。
 そして、何時ものように笑った。
 最後の最期に、アイシテルと言い残して。
 息を引き取った。
 光の柱が上がり。
 世界は豊かになった。
 けれど、居ない。
 心に穴が開いたような空虚感。
 俺は、アイツの事を存外気に入っていた事に気がついた。
 もう、アイツは居ないから。
 交わした約束をアイツが居た証として大事に抱え。
 その約束を守る事を生きる理由にした。
 そして今に到る。
 奴の意思が宿った石に導かれた朱色と白銀。
 奴により神子の役わりを知った白銀は神子の役わりを奪い。
 白銀を失いたくない朱色は俺に縋った。
 このままだったら、朱色は白銀と分かれるのだろうかと。
 このままだったら、どっちかが死ぬのだと理解した。
 けど、白銀は諦めていなかった。
 追いかける為に逃げ出した、でも捕まった。
 朱色を諦めていなかった。
 頑張ってる。今でも。
 だから、俺は白銀の前に出た。
 手伝うために。
 もしかしたら、この二人だったらやってくれるんじゃないかなと。
 少しの期待。
 俺は無理だったけど。
 色々と知ったこの二人だったら可能じゃないのかと。
 思う。
 奴は、俺に記憶だけど色濃く残していったけど。
 この二人だったら一緒にはいられるんじゃないかなと。
 悪魔だけど。
 二人が俺達と違って、幸せになれば良いなと。
 願ったんだ。


back top next


back ground by:空色地図