本当の事を言ってしまえば、俺は本当は知っていた。
神子の役わりが生贄だという事を、俺は知っていた。 何時ぞやの日に、俺は知ったんだ。 そして、俺は知っていて、神子の役わりをアイツから取った。 アイツが俺を死なせたくないと思ったのと同じように、 俺はアイツを失う事を赦せはしなかった。 何時ぞやの日に、俺は知った。 其れは、あの石を手にした時だったのか。 偶然アイツとあの場所に落ちた時だったのか。 正確には分からないけれども。 俺はあの日の選択を、後悔していない。 知られたら、怒られると思ってはいたけれど。 怒られた時の事を考えてはいた。 其の時言い出そうとは思っていた。 逃げようと。 駆け落ちも悪くないよなぁ、って。 神子について知ったとき思ったし。 其の時の自分の思考を考えると、思わず苦笑いを浮かべてしまう。 恋に浮かれすぎていたんだろう。 恥ずかしい過去だ。 若気の至りっていう奴なんだろう。 そんなこんなんで、俺はアイツが怒った時、もしくは最後の一時までその秘密を抱えていた。 そして実際は思っても居た。 俺は生贄になっても良いんじゃないかと。 未練は、ある。 アイツとずっと一緒にいたいという未練が。 だけど、もしも俺が死んで、アイツが理想郷となったこの世界で生きていけるんだったら、それでも良かったんだ。 アイツが幸せだったら。 でも、考えれば分かっていた事だったんだ。 俺がアイツを失いたくないのと同じように、 アイツも俺を失いたくないんだって。 気付いてれば、明かしていれば、良かったんだろう。 でも思ったんだよなぁ…… 「俺のいない日々をかみしめてくれるなら……」 そう、心の中に傷としてでもいい、俺という存在を刻み付けたくなったんだ。 だから、こうなった。 「馬鹿みたいだ……」 本当に、馬鹿だった…… 「馬鹿だよ。残される、嫌。一緒のが良い。どうせ死ぬなら、一緒が良かった。馬鹿だよ、本当に、馬鹿」 呟き。 独白。 予想外の声と言葉に俺は思わず見上げた。 俺を抱えて、漆黒の翼で風を切り裂いて飛ぶ影を見上げた。 無表情が歪んでいた。怒っているような悲しんでいるような辛そうな色々な物がない交ぜになった感じの表情だ。 俺が見ているのに気がついたのか、影は感情を消した。 それ以上、何も言わなくなった。 俺も何も問い掛けなかった。 きっと、俺に聞かれたくも無いのだろうとそう思った。 だから、俺は眼を閉じる。 大事な時に、動けるように体力を使えるように。 今は眼を閉じて、休もう。 例えお前が望んでいなくても、 俺は会いに行く。 |