俺以外誰も居ないはずの部屋で、 俺以外の誰かの声がした。 頭を動かし、声が聞こえてきた方向へと向ける。 部屋の中溶け込むかのように佇む影があった。 知らない人物だ。 王から派遣された人ではない。 いや、そもそも人間なのか? 異質さを感じ、警戒する。 「コンバンハ」 影は繰り返した。 どう返事したものか。 誰かと問うべきか、人を呼ぶべきか。 考える。 呼ぶのは得策ではないのだとは思う。 ただでさえ軟禁状態なのに、此処で人を呼んだら監禁になるのではないのだろうかと。 思った。 だから、俺は返した。 挨拶を。 そしたら影は此方へと近づいてきた。 やはり見たことの無い顔だ。 「お前は誰だ。何で此処に居る。外に居る監視を潜り抜けて此処に入ってきたのか?」 「監視。無意味。俺にとって此処来るの、簡単」 「へぇ、そりゃすごい。是非とも俺にそのスキルを伝授してほしいものだ」 「出たいの」 「あぁ、出たいとも。俺は早くアイツを探しに行かなくちゃならないんだ」 「如何して」 「一緒に居たいからだ。アイツの隣は俺のだから。捕まえに行くんだ」 其処まで言って、俺は思わず苦笑いを浮かべた。 何で俺は見知らぬ人に言っているんだ。 知らない人に言いたくなるほど、俺は追い詰められているのかと。 思った。 「刺したのに。刺されたのに。一緒が良い。やっぱり、人は変」 無表情に、首をかしげて言った黒い影に俺は眼を見開いた。 何で知っているのかと。 如何して知っているのかと。 何を知っているのかを、問い詰めたくなった。 衝動に身を任せ、痛みを無視して俺は影を引きずり落とす。 組み敷く形で、手で首を絞める。 「貴様、何を知っている!」 激情に任せて叫んでも影の表情は揺るがない。 感情の無い、違う色の瞳で俺を見上げるだけだ。 それに怒りが湧き上がる。 叫んだ。 喚いた。 溜め込んでいた言葉が感情が爆発した。 其れを影は黙したまま、眺めていた。 時間が過ぎる。 疲れたような、すっきりしたような感じだ。 溜め込んでいた物を発散できたからか、少し落ち着いた。 見下ろす。 やはり影は無感動に此方を見ているだけだった。 そして違和感を感じた。 あれほど、叫んでいたというのに。 外から人が入ってこない。 まるで、この部屋が閉ざされた空間にでもなったかのように。 「落ち着いた」 不安を抱いた瞬間影が言った。 「知りたい事ある?」 聞いてきた。 聞いたら答えてくれるのか。 そう聞く前に、 気がつけば俺は是と応えていた。 「じゃあ教える。何知りたい」 「シンキューが如何して俺の元を離れたのか」 沢山の質問があったはずなのに、 俺の口から出てきたのはそれだけだった。 あぁ、そうだ。 結局俺にとって世界とは二の次で。 常にアイツの事が一番なんだ。 アイツが居れば、それで良いんだ。 「神子役わり。教えた。方法知りたいから教えた。彼決めた。君離れると。そうすれば救えると」 「まてまて。一つずつ教えてくれ。とりあえず結論に飛ぶ前に経過をもう少し詳しく」 「神子は、生贄だって教えたら。お前助ける方法聞いてきた。石無ければ止められる。旅出来なければ時間稼げる。言ったらじゃあ両方あわせたらもっと確実だよねって言って、君から石を奪う序に重症負わせて旅止めた」 「あぁ、お陰でアイツを追おうにも追えない状態でこっそり抜け出したら軟禁状態になったな。つーかお前が元凶か」 思わず睨み付けた。 いや、結論を出したのはアイツだろうけど、極端的じゃねぇか選択肢。 つか相談して欲しかった…… 「それで君から離れた。でも泣いてる。選択したのに、凄い泣いてる。不思議。君も痛いのに会いたいって言ってる。変。人間、変」 「アイツは、泣いてるのか」 「そう」 「アイツは、寂しがってるのか」 「そう」 「アイツは、後悔してるのか?」 「してない。ただ、悩む。他の方法はなかったのかって」 「そうだな、きっとあっただろう」 「ある」 「だろうな。アイツは馬鹿だからさ……何時も一人で抱え込む奴で、思いつめるとこういう行動するんだ」 「知ってる。抱える。相談できたのに。お前だったら一緒逃げると思った」 「あぁ、俺だったら。相談されたら一緒に逃げていた」 「けど選んだ。君に言わないで。俺提示した相談の選択を無視して、離れる選んだ」 「馬鹿なんだよ、アイツは……」 「会いたい?」 「あぁ、会いたいなぁ……」 「一緒がいい?」 「ずっと一緒が良い」 「行く?」 「出来たら」 「じゃあ行こう」 「無理だ、体調が悪い上に監視が厳重だから、出れない」 「可能」 「どうやって」 「連れ出してあげる」 「代償は」 「いらない。ずっと昔貰ったから」 「初対面のはずだろ」 「うん」 「じゃあどうやってあげた」 「君じゃない」 「誰が」 「アーロ」 知らない名前だ。 聞いた事の無い名前だ。 いや、違う、どこかで……? 「準備要る?」 「いらねぇよ」 大事なものは常に身につけている。 国との別れの準備も不要だ。 元々気に入りはしなかった。 突然にやってきて、 俺とアイツを引き離し、 そして俺を祭り上げた国なんて、不要だ。 サヨナラの準備など、とっくの昔に終わらせている。 本当は、何時この役目から逃げても良いと俺は思っていた。 「行こう」 差し出された手、 影の背後で闇が蠢く。 恐怖など抱かず、俺は其の手を取った。 |