産声が聞こえた。
二つの命の音。 慈愛の微笑みを湛えたまま赤髪の女性が赤子を腕に抱く。 すぅと息を吸い込むと彼女は歌いだした。 静かに高く紡ぎだされるのは命の歌。 歌声は部屋を満たす。 生れ落ちた二人の赤子は泣くのを止め笑い出す。 微笑ましい光景を医者が笑みを浮かべながら眺めた。 唐突に強烈な音が響いた。 吃驚した赤子は再び泣き始め、赤髪の女性は慌ててあやし出す。 泣き止まない二人を抱きかかえながら女性は音の原因を睨む。 其処には紅色の髪を持つ男が立っていた。 息をきらせ振るえている男が見つめる先は二人の赤子。 喜びの声を上げ男は女性に近づき、赤子ごと抱きしめる。 女性は仕方がなさそうに溜息をつき、抱擁を受け入れる。 そうして彼女は歌いだす、喜びの歌を。 紅色の髪を持つ男が仕事の為に追い出され、 医者が他の患者の為に立ち去った後の事。 女性は静かに眠る赤子を眺めていた。 微笑を浮かべたままそれぞれの首にネックレスを掛ける。 赤子にとっては大きく、女性にとっては小さいそれは黒く艶やかに光を反射する。 ベッドの端に腰をかけ彼女は子供達の名前を呟いた。 これから先の事を考えて幸せに浸っていた。 音を立てて開かれる扉、 甲冑を着込んだ男達が足音を響かせ入ってゆく、 先頭に立つのは司祭の服を着込んだ男、 その手に持つのは……勅命が書かれた一枚の、紙。 それを認識した瞬間女性は悲鳴を上げた。 甲高い声にか、周囲の状況を本能で悟ったのか二人の赤子は泣き出す。 抵抗をし、抗議を上げる女性を二人の兵士が抑える。 もう一人の兵士は司祭の命ずるままベッドへと向かい……一人の赤子を持ち上げた。 泣く赤子に眼もくれず、泣き叫び請う母親をも気にせず兵士達は司祭は……国は“彼女”を家族から引き離した。 かくて世界は支えられる。 かくて世界は歪な繁栄を続ける。 世界の為に人の為にという免罪符を持った人々は人柱を作り上げる。 己の為にと正義の為にと事をなす。 産まれたばかりの赤子でさえも、全ては世界の為にと犠牲にする。 それは果たして正義なのか、悪なのか…… 知る人は居ない。 全ては隠された“真実”でしかなく、 また判断する人も居ないのだから。 そうして人々は生き続ける。 己の幸福が命が誰かの――赤子のでさえもの――犠牲によって成り立っている事を。 |