第二章 道化の助言

0.夜の劇

 暗い夜の中を幾人の男が走る。
 大きな荷物を抱え、足をもつらせながら走る。
 彼らの顔には焦り。
 月明かりも星の煌きも雲に遮られている。
 故に彼らの元に光は一切無い。
 されども彼らは足元を気にする事も無く、ただただ我武者羅に走り続ける。
 まるで何かから逃げているかのように。
 定かではない道を、当ても無く、恐怖に駆られるままに。
 振り返らずに。
 まるで得体の知れない何かに追われているかのように、走った。
 不意に風を切り裂く音が、
 次の瞬間、最後尾を走っていた男が崩れ落ちた。
 何かに足をとられたのだ。
 他の面々も思わず立ち止る。
 倒れた男は恐怖を浮かべたまま目の前に立っている仲間達に手を……
 悲鳴が上がる。
 幾つ物悲鳴が。
 助けを求め、伸ばされた手は虚しく大地に落ちている。
 何も知らないままただ恐怖を抱いた男は意識を断ち切られたのだ。
 それを目撃してしまった他の面々は持っていた荷物を投げ出し、走り出す。
 投げ出された荷物の蓋はその拍子にはずれ、中から転がり出たのは子供。
 彼らの商売道具。
 ソレを気にする事も無く、本能のままに彼らは走る。
 一陣の風が吹く。
 彼らの真ん中を走り抜ける影。
 なすすべも無く倒される人々。
 風が通り過ぎれば其処には立っているものは影以外無く、
 ただ静寂のみが残った。
 唯一即死を免れた男は仰向けになったまま最後に見たのは。
 風に引き裂かれた雲の合間から覗く満月と……
 顔の右部分を覆う仮面をつけた――


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