ながい旅路へ、10の御題

03.その先が理想郷だったとして

 始まりは何だったのだろうか。
 何時から決まっていたのだろうか。
 出会った事から始まったような気がする。
 全ての偶然の始まりは其処から始まったんだと思う。
 だけど、私は出会った事を愛し合った事を後悔なんてしたくない。
 彼を愛しているから。たとえ、同性だったとしても。
 でもきっと其処から始まったんだ。
 偶然出逢い、当然のように結ばれた私達は、
 当たり前のように一緒に過ごす事になった。
 そして偶然私の問題が発展し、
 彼が居たから必然的に解決した。
 それが、引き金となった。
 彼は認定された。
 神子なんだと言われた。
 そして使命を果たせと王様に言われ。
 私達は旅に出ることとなった。
 王様が選んだ人達と一緒に旅に出た。
 必要な事をなし遂げたら平和に暮らそうと言われ私は浮かれた。
 だって旅は楽しかった。
 道連れとなった人達も良い人だったし、私達の仲を邪魔する人は居ない。
 旅が終わったらずっと一緒という誓いも立てた。
 だから幸せだったんだ。
 軽い気持ちで悪魔に問いかけ、真実を知るまでは。
 神子が本来なら私である事と、
 神子とはただ名ばかりの生贄だという事を私は知ってしまった。
 私が美味しそうなのは神子だからだと知った。
 役わりが自然的にシキにシフトした事を知った。
 王様が神子を犠牲にしようとしているのを知った。
 このままだとシキは死んでしまう事を私は知ってしまった。
 世界にある伝承は。
 神子が現れ、旅をし、旅路の果てに神と出会い世界に幸を振りまく事となるであろう、
 その伝承が全てを語っていないと知った。
 神子は生まれる、人として過ごす。
 神子は旅に出る、導かれた先に死が待つ。
 神子の死によって世界は富を得る。
 ようするに生贄なのだと。
 世界を豊かにするための餌なのだと、
 悪魔が教えてくれた。
 愕然とした。
 幸せが絶望に変わった。
 私は彼を失いたくない。
 だから悪魔に縋った。
 如何すれば彼を救えるのかと。
 命を奪われないようにするのかと。
 彼は言った。
 殺せば良いんじゃない?
 本末転倒じゃねぇか、思わず思った。序に手を出した。
 他人に殺される前に自分で殺して食べちゃえ。
 何処のヤンデレだよ、口に出して足を出した。
 彼なりの冗談だったようだけれども笑い事じゃないのでもう一度殴った。
 うっかり実行しようかなと本気で思ってしまったわけだし。
 彼が言うに、役わりがシフトされた状態なので今更私が神子の役わりを果たせはしないのだろうと。
 だから変わりに犠牲になる、正確に言えば本来の生贄が命を差し出す、という手段は使えないようだ。
 そのまま彼は幾つかの手段を私に提示し、
 私は選んだ。
 一つじゃ少しの足止めにしかならないだろうからあわせちゃおうと。
 導きの石、生贄を捧げる祭壇への道を示し作る石を奪い、
 尚且つ死ぬギリギリの致命傷を与えてちゃえと。
 最善の選択だと信じ、私は実行した。
 だから赦しは乞わない。
 逃亡劇を続ける。
 たとえ、指名手配され世界中の人々に恨まれようとも。
 だって、
 その先が理想郷だったとしても、
 彼が居なければ私の世界は死んだも同然なんだから。
 だから、

「私は何度でも君達を拒絶するし戦う。私は、戻らない」

 嘗ての仲間達に剣を突きつける事さえ、厭わない。


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