眼を覚ますと知らない天井が見えた。
薄暗い部屋の中、俺は寝ていた。 身体を動かす、 瞬間に感じるのは痛みだ。 手を動かして腹の上へと。 熱を持った傷があった。 そして思い出す。 俺は、愛している人に刺された。 二人で他愛もない話をし、 そして彼は俺を刺した。 泣きそうな顔で、 辛そうな表情で。 最後に伸ばした手は彼に届かず、 俺はそのまま意識を失ったのだ。 如何して、 何故、 考えても答えは出ない。 俺達は互いの事を良く知ってはいたけれども、 お互いの性格を掴めてはいたけれども、 それでも、 理解できるほどに易しくない事も知っていた。 共感はした、 分かち合った、 それでも深い思考を知らない。 俺達はお互い最後の一線を、心の中で無意識の内に敷いた境界線を越えなかった。 その結果が此れだ。 その結末が此れだ。 アイツは俺を刺して去った、 俺は倒れ置き去りにされた。 悔しい、 素直にそう思う。 そうだ、 悔しいんだ。 だって、今にして思えば、アイツは思いつめていた表情をしていた。 何か考えているような、悩んでいる感じだった。 俺はそれを見過ごした。 俺はそれを放置した。 今が幸せすぎて。 一緒に居られる事に幸福を感じすぎて、 俺は思考を放棄していた。 だから、置いて行かれたのは、必然だったのかもしれない。 少しの思考と行動で変えられたかも知れない結末を迎えてしまったことに、 俺は酷く悔しいと悲しいと思う。 もっと、アイツを気にかけていればよかったような、そんな後悔。 捨てたのはアイツで、捨てられたのは俺だ。 もう、アイツの傍に戻れないのか……? そんなのは…… 「イヤだ」 そう、イヤだ。 アイツの隣は俺の物だ。 アイツと一緒に居るのは俺だ。 誰にも渡しはしない。 俺の居場所はアイツの隣だから。 だから、 「待ってろよ、シンキュー。俺は……」 お前を逃がしはしない。 |