大地を踏みしめる。
石のように硬くは無く、絨毯のように柔らかくない。 けれどもしっかりとしていて、何処か暖かい。 「此れが大地……」 “全ての世界は 大地で繋がっている” 道から外れ、草むらを進む。 命を踏みしめ人は生きる。 強かな命は負けずに生きている。 草が、花が、木が人や動物の生を支える。 「それが、命」 “命は生まれ 強く支えあい生き続けるの” 空は青く、蒼い。 時間と場所によって変わり続けるモノ。 天候というモノによって変わる、色と空気。 「それが、空」 “空は何処にでもあり 何処までも果てない” 世界は何処までも広く、果てしない。 遠い大地には海や山がある。 海は青く澄み渡り、命が生きているという。 山は木や草や花が満ち溢れ、生き物は食らい合う。 「見知らぬ、世界」 “何処までも広く 世界は続いてゆくの” 周囲を見回す。 俺以外の人の影は無い。 この歌声は何処から聞こえているのだろうか。 少なくとも、聞こえているのは俺しか居ないようだ。 “紡がれる歌は 世界を讃える歌” 優しい歌声だ。 “光が溢れる朝 闇が訪れる夜” 懐かしい歌声だ。 “けれども優しく 世界は命を見守る” 夢の中で聞いた歌声だ…… “だから悲しまないで 世界は共にあるのよ” 俺は、この歌い手を知っている。 “風は流れ 大地は根付く 果てない空は遠く 広い海は流れる” 眼を閉じる。 吹く風を全身で感じる。 “世界は何処までも続く 全ての命は生まれ行くの” あぁ、俺は…… “光が溢れ 続いてゆくの だから泣かないで 私は此処に居るから” 歌が止まる。 眼を開く。 錯覚か幻想か、目の前に俺にとてもよく似ている赤髪の少女が祈っているかのように手を組み合わせていた。 瞬間俺は悟る。 彼女が、歌い手だと。 「俺は……四季」 何を言えばいいのか分からなかったので取りあえず名乗ってみた。 “私は、シンキュー” 眼を開いた彼女の瞳は優しい緑色だ。 微笑を浮かべながら彼女は名乗る。 手を伸ばし、彼女に触れようとしたその時、 一陣の強い風が吹き、俺は思わず眼を閉じ、庇うために腕を戻す。 次に眼を開いた時には少女の影は無く、大地が草が木が空が鳥の囀りが戻っていた。 先ほどの事は何だったのだろうか。 疑問に思うも答えを得る事は無い。 背後から俺の名を呼ぶ声が聞こえた。 先ほどの出来事を頭の片隅に残し、俺は友達の下へと駆け出した。 歌声はもう聞こえていなかった。 |