両親を無くし、家を無くしたあの日から六年の年月がたった。
俺は隣人の世話になりながらもあの日の事を忘れられずに居た。 明らかに自然ではない死に方を遂げた両親の姿。 赤く燃え盛る住み慣れた家の景色。 炎に気づきやってくる隣人達。 どう頑張っても炎は消えず、結局全てが燃え尽きるまでそれは燃え続けた。 灰と炭以外何も残さず、 そうして俺が両親と一緒に過ごしてきた痕跡は全て消えた。 無気力に生きた一年間。 幸せになってという言葉がずっと頭に残っていたけれど俺にはどうしても気力が出せなかった。 炎に囲まれた時はあんなにも生きたいと思ったのに。 いざ生き残ってしまえば今度はどうして生きているのだろうと思い始める。 その間時折聞こえてきた歌に慰められた。 そして一年が過ぎれば俺は再び理由を探し続けた。 誰もわからなかった、如何して家が燃え、両親が亡くなったのか。 足掻いても足掻いても理由を知る事は無かった。 事件の原因を探すのと同時に俺は人々に尋ねた。 竜の歌姫について。 誰一人としてそんな言葉を知らなかった。 不信感を抱いた二年目。 三年目に歌が聞こえる頻度が増えた。 何時ぞや見た微笑は薄れることなく、寧ろ焼きついたかのように頭から離れない。 そして俺は探しにいこうと決めた。 唯一の肉親に会いたかったのだ。 あの微笑みが見たくなったのだ。 そう決意してから俺は努力した。 そして行く年が流れ。 俺は十六歳となる。 大きくも無く、小さくも無い微妙にのどかな町に未練が無いとは言えない。 それでも俺は、探しに行きたかった。 会いたかった。 少し話しがしたかった。 両親が居なくなったと教えたかった。 両親がどんな人だったのか教えたかった。 俺は、双子の妹――姉とは認めない、断じて認めない――シンキューに会いに行きたかった。 きっと何処かしら繋がりがあるのだろう。 魂の片割れといってもきっと間違っては居ない。 だから、探しにいこう。 決意してからは努力を怠らなかった。 剣術を教えてもらい、野宿について食べられる物についても調べた。 必要なものも頑張って働いて買った。 周囲の反対を押しやり、俺は決めていたから。 だから、俺は旅に出る。 ノースリーブのハイネック、動きやすさを重視したズボンとブーツ。その上にファーとフード付きノースリーブのコート。腕には肘まであるグローブを身につけお金を掛けて買った剣を腰につるす。 準備しておいた物を確認しながらリュックに詰め込み、持つ。 食料も地図もコンパスもある。 後は出掛けるだけだ。 町の皆に挨拶をし、俺は歩き出す。 最後に一度だけ振り向いた。 俺と同年代の子供達が息を切らせて立っていた。 「行って来い!」 「待ってるから!」 「頑張れよ!」 「気をつけてね!」 それぞれがそれぞれの言葉を叫ぶ。 胸が温かくなって瞼が熱くなった。 ぎゅっと眼を閉じ、俺は手を振り上げる。 「行って来る!」 其れを最後に俺は長い道のりを歩み始める。 目指すのは東。 ただただ東を目指す。 そして歌を指針に俺は旅をしよう。 何時か見た笑顔をもう一度見るために。 何時も感じる片割れと会う為に。 もしかしたらずっと一緒に育ったかもしれない妹――断じて姉とは認めない、大事なので二回言った――との生活を取り戻すために。 俺は、東へと向う。 リュックを持ち直して俺は歩みだす。 キーン。甲高い音が響いた。 視線を足元に移すとネックレスが落ちていた。 家が燃える中俺が回収できた物だ。 屈み込み、拾い上げる。 黒く艶やかに光るヘ音記号の形をしたネックレス。 ギュッとそれを握り締める。 何時ぞや聞いた気がする。 此れには対となる形、ト音記号の形をしたネックレスがあると。 今にして思えば俺の片割れ、シンキューがそれを持っているのかもしれない。 首に紐を通す。 首から提げたネックレスはただ黙したまま光を反射するだけだ。 さぁ、旅に出よう。 待ってろよ、シンキュー。 俺はお前を、探しに行くよ。 |